コラム

ネットによる地方の疲弊

住宅ローンでマイホームを購入した人がリストラなどで毎月のローンの支払ができなくなると、ローン会社では究極のところ、担保に取ってあった土地・建物を競売にかけます。
競売の申立を受けた裁判所は執行官が権利関係の調査をし、不動産鑑定士が物件の評価をします。そして、両者の報告書(物件明細書・評価書)に基づいて裁判所は競売の最低売却価額を決め、売却の決定をします。
競売物件は一般的に安いといわれます。その理由は、土地の境界を裁判所が決めてくれるわけではなく、建物についても耐震性が保証されるわけではないなど、通常の売買などとは全く異なることも一因となっています。
しかし、安いといってもそれなりの値段ですし、分割支払が許されるわけではありませんので、買受希望者は代金は全て一括で準備しなければなりません。銀行等と馴染みがありある程度信用のある人であれば、事前に金融機関と打ち合わせをして、購入する代金を借りる段取をすることができます。しかし、それができない人にとってはなかなか手をだすことができない一面もあります。

今回問題としようとしているのは、地方の裁判所での競売情報がいわゆるネットに掲載されることです。
地方の中小都市(私の居住している松本市もその典型です。)は周囲を山々で囲まれ、新幹線も通っていない都市です。東京との距離も200kmしかありません。東京に行く交通手段は、高速道路、JR、高速バスです。いずれも所要時間は2時間半から3時間ということでしょうか?長野市は松本より東京との距離は長いのですが、長野新幹線の開通により1時間程度で上野、東京駅に着きます。
その意味で松本は距離に比して便が良いとはいえず、いわば現代版の「陸の孤島」化していると言っても過言ではありません。
私は、この松本の置かれている状況を嘆いているのではありません。却って、それを有意義なものとして捉えています。

しかし、経済的に見たとき、東京等には比べようもなく弱いのです。
ある人の物件が競売に出されたとき、その人の家族或いは親族は大騒ぎです。その理由は親戚の面目もあるかもしれません。住む住居がなくなってしまうという切実なものであることもあります。
そこで、親戚縁者は、債務者のために家を残すべく、資金集めに奔走し、比較的安い競売価格に若干上乗せして入札をします。
ところが、競売情報がネットに載った途端、東京等の業者等の目にとまります。業者はその値段に驚くはずです。安いからです。しかし、この安いという判断はいわば書類等から得たものであり、その土地の来歴或いは松本付近での実勢価格とは乖離しているのです。
しかし、東京等の業者にとって、地方の物件は割安と思える価格で、そのような業者が入札に参加した場合、親戚が入札に勝てるはずはありません。
そして、東京等の業者が入札した後、親戚が業者から買い戻しをしたいと申し入れたとき、業者からは到底支払えないような金額が提示されるのです。

これはどこかで見たことのある光景ではないでしょうか?お金の有り余っているときの日本・中国が他国の不動産を蹂躙するように買い漁り、顰蹙をかった時期もあります。いわゆるバブルです。
日本においては、バブルが崩壊してからというもの、空白の20年といわれる不況の時期がありました。現在、若干景気は上向いているなどと一部では言われていますが、それとても金融商品或いは為替等という実務現場とは異なる世界においてであるに過ぎません。

このままでは、東京等の都会の資金(ミニ「中国資金」とても言いましょうか)に地方が蹂躙されることは必至です。
私は、今年、裁判所に対し、ネットで競売物件の情報を流すことを止めるように上申書を上げるつもりです。裁判所がどんな返事をするのか。また、報告します。