コラム

処理水の海洋投棄の決定と大阪府知事の発言について

政府は令和4月13日東京電力福島第1原子力発電所から出る汚染処理水を海洋投棄する方針を決定しました。漁業が蒙る風評被害等を考えると本当に難しい話です。
福島第一原発では放射性物質に汚染された水が現在も毎日約140トン出続けているといわれています。10年前、東日本大震災により福島第一原発で起きた事故で1~3号機の原子炉内にあった核燃料が溶け落ちて、現在でも熱を発しています。放射能を拡散させないため、水をかけ続けることで冷やしているのですが、冷却に使用された水は放射性物質を含むようになり「汚染水」というらすうのです。汚染水の量は現在も毎日約140トン出続けているといわれています。
汚染水に含まれる放射性物質は「ALPS(アルプス)」と呼ばれる装置で取り除くことができるということで、浄化処理された後の水が「処理水」と呼ばれているということです。
この「処理水」の処分方法についてはこれまでどのように処理するのかが決まっておらず、年間約5~6万トンずつ増える処理水は福島第一原発の敷地周辺で貯水タンクで保管していました。タンクの数は、現在では1000基を超えているというのです。しかし、このタンクの容量も来年の秋以降には限界を超えるとされています。
政府は、「処理水の処分方法について、事故直後から検討してきた。」として、その結果、「まず、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を徹底したうえで、最後まで残る『トリチウム』が基準値を下回るまで十分薄めてから海に放出する。」ということを決定したというのです。

政府の発表等では、トリチウムという物質は水素の仲間で、雨水や人体などにも微量ながら存在している。トリチウムは水と同じ性質を持つため、トリチウムだけを処理水から分離することが難しい。」そのため、「処理水を海水で100倍以上に薄め、国で定めている濃度限度の40分の1にして放出する方針」だということです。

政府の基準は、(トリチウムの量?が)世界保健機関(WHO)で定める飲料水のガイドラインと比べても7分の1であることや、日本を含めた世界の原子力施設でもトリチウムは発生しており、施設のメンテナンスの際などに薄めて海に放出されていることからしても安全性があるということです。
経産省は、他国の例として、韓国の古里原発が液体として放出しているトリチウムの量は年間約55兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理工場では年間約1.4京ベクレルに上ることをあげています。そして、福島第一原発でも事故前にはトリチウムを出していたというのです。
今回決まった基本方針では、トリチウムの年間の放出量は福島第一原発が事故前に通常運転していたときに目安としていた(量?)と同じ(?)「22兆ベクレルを下回る水準」とした。まずこの水準で放出を始め、量については定期的に見直すということです。

 

私は、政府の言っている科学的なことは全く門外漢であり、その真偽については全く判りません。

しかしです、トリチウムなどという物質が原発の通常稼働でも生じており、それは処理(どこかに投棄?)されていたらしいということは、一般国民は昔から知っていたのでしょうか?
そんなことが論点となり、「トリチウムは安全だから原発は大丈夫」などという議論がこれまであったのでしょうか? 少なくとも、国民には知らされていたのでしょうか?

いつも国民は、蚊帳の外に置かれ、「政府を信じなさい」とだけ言われ、本当のことを知らなかったのではないでしょうか?
福島第一原発の事故から10年間、このような検討が政府によってなされてきたというのであれば、それについて国会或いは国民の間においても議論が尽くされても良かったのではないでしょうか。しかし、その形跡は一部の密室的な話し合いがなされたのみで、国民に対して白日の下に晒されてきたとは到底言えないものではないでしょうか。

それに輪をかけるように、大阪府の吉村洋文知事が、日を開けず13日、大阪府としては、政府が海洋放出を決めた福島第一原発の汚染処理水について、「政府からの要請があれば大阪湾での放出も真摯(しんし)に検討したい」と述べたのです。そして、記者会見で、吉村知事は放出される処理水の放射性物質の濃度は国の放出基準を下回るとして「世界基準でも安全だ」と言い、「風評被害を福島だけに押しつけるのはあってはならない。電力を特に消費するエリアを含め全国で協力すべきだ」と語ったというのです。

大阪は、本日(13日)のコロナ感染者がこれまでの最高値である1099名となっているのです。

西村知事は、コロナに関しても、大阪は医療が逼迫した状況ではないとして、東京都に先んじて緊急事態宣言を取り消して欲しいとの要望をなしたではありませんか。その体たらくが感染者の増加ではなかったのでしょうか?

その舌の根も乾かないうちに、今般はコロナより更に議論を尽くさなければならない汚染処理水の取扱について発言するなどというのは、一体何をお考えなのか全く理解に苦しむのです。目眩ましでしょうか。

希釈された汚染水も多量になれば、トリチウムの絶対量は確実に増え続けます。「希釈」というものは、それによって絶対量を減らすことができるものではないことを理解すべきです。

大阪湾は、瀬戸内海の端に存するもので、外界に比べて水通しは絶対的に悪いはずです。そのような場所に、どれくらいの量かは判りませんが、汚染処理水を放出することが危険ではないのかどうかについてきちんとしたエビデンスをお持ちなのでしょうか?

スタンドプレーはほどほどにして欲しいと思います。弁護士なのですから、もっと思慮深い発言をしていただきたいと思います。