コラム

憲法記念日に安倍首相がとんでもないことを述べました!

5月3日は憲法記念日でした。

安倍首相は、憲法記念日に開催された憲法改正推進派のオンライン集会にビデオメッセージを寄せ、憲法改正への意欲をあらためて示しました。
安倍首相は、新型コロナウイルスへの対応を踏まえて「現行憲法においては、緊急時に対応する規定は『参議院の緊急集会』しか存在していない」と指摘し、時代にそぐわない部分、不足している部分は改正していくべきではないかとの趣旨を述べました。
法律に深い造詣を有していない安倍首相が誰かからの受け売りで述べたものでしょうが、とんでもないことです。またまた、火事場泥棒の様相を呈しています。

当然、野党等からこのメッセージに関する批判が相次ぎました。
その中で、立憲民主党枝野幸男代表が、新型コロナウイルスを始めとする他の災害の際にもそれぞれの場合に応じて法体制が整っており、それを使うことにより現在の緊急事態対応と同様のことができると説いたことは、我々法律家には大変説得力がありました。

安倍首相が力説する憲法改正について、日本国民としては、安倍首相のいう不備な憲法規定である「現行憲法第54条第3項及び第4項とは何か」及び「新設しようとしている条項が何か」を知らなければなりません。

 まず、現行憲法の条文をしめします。
【現行憲法】
 第54条 衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙
を行い、その選挙の日から三十日以内に、特別国会が召集されなければならな
い。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、
に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
  4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の
会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う

 安部首相が制定を目指す「自民党改憲草案」の緊急事態の宣言についての規定(現行憲法には規定がなく新設するというものです。)も以下に記します。
【自民党改憲草案】
第9章 緊急事態
(緊急事態の宣言)
第98条
  内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩
序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態にお
いて、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にか
けて、緊急事態の宣言を発することができる。

  2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を
得なければならない。
  3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急
   事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継
続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、
当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、100日を超えて緊急事態
の宣言を継続しようとするときは、100日を超えるごとに、事前に国会承認を
得なければならない。
  4 第2項及び前項後段の国会の承認については、第60条第2項の規定を準用す
る。この場合において、同項中「30日以内」とあるのは、「5日以内」と読み
替えるものとする。

(緊急事態の宣言の効果)
第99条  緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法
律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財
政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をす
ることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に会
の承認を得なければならない。

  3  緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、
当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措
置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場
合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に
関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
  4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、そ
の宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任
期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

読んでいただけると判ると思いますが、現行憲法第54条第3項及び第4項は、簡単にいうと「衆議院が解散され衆議院が議決できないときで、国に緊急の必要があるときは、内閣は、参議院の緊急集会を求めることができ、本来は衆議院と参議院の両院で審議・裁決しなければならない法案等について、参議院だけで審議・決議することができる。」ということであり、「その決議は事後的に衆議院の審議・決議により同意されたときには両院で審議・決議したこととなり、衆議院で否決されたときは参議院の決議は効力を失う。」というものです。
これは、法案等についての「国会(衆議院・参議院)の意思形成」の問題です。
しかし、自民党改憲草案の緊急事態の宣言の規定は、「内閣総理大臣」が宣言するものです。
「内閣総理大臣」は「内閣」の一員ではありますが、一個人だと言っても過言ではありません。

 国家の緊急時に対応する権能を一人の判断委ねるなどというのは、戦前の天皇に与えられた統帥権或いはナチスドイツのヒトラーに与えられた権限を彷彿とさせるものであり、断じて憲法上で認められるものではありません。

この議論については、これからも私自身更に勉強して、コラムに随時掲載していこうとおもっています。
今回は、そのさわりだけお伝えしました。